2009年03月09日

図書館学学はもうやめよう

 図書館関係の本は、意外とたくさん出版されている。しかし、私はどうもあまり読む気になれない。正直言って、つまらないからだ。
 なぜ、つまらないかというと、一言で言うと、図書館学でなくて図書館学学になってしまっているからだ。図書館について学ぶのではなく、図書館学を学ぶということになってしまっている。
 たぶん、図書館問題研究会の出発点もこういうところにあるのだろう。図書館学学からの脱出である。

 現実の社会の在りようをとらえ、そこからサービスを構築しなければ、図書館は役に立つものにならない。図書館が相手にしているのは、現実の人間社会であって、物質ではない。
 確かに、ヒトという生命体も物質から構成されているため、社会とか文化とか精神とか言ったところで、その本体は物質であるという議論はよくなされるところである。
 しかし、このような議論は、文字と言ったところで、その本体はインクの染みであると言うようなもので、それこそ意味をなさない。
 文字の本質は、やはり意味である。だから、その本質としての意味は保たれたまま、文字が変わるということはよくある話である。そもそも、日本語自体、独自の文字を持っているわけではなく、漢字やそれを改造した仮名を使っているだけだ。

 図書館学も図書館の意味を問わなければならない。そして、その問いは難しいけれども、シンプルだ。つまり、結局、次の2つが大本だと思う。

1 図書館はなぜ必要なのか? そして、必要とされる図書館とはどのようなものなのか?
2 図書館はなにを目指すのか? そして、なぜ、それを目指すのか?

 文章上2つになっているが、概念としては1つのものである。
 どうしても必要とされる社会の中のある特定の、しかし、同時に普遍的な仕組みを「図書館」と呼び、そのようにして「図書館」と呼んでいるのだから、それは、当然、必要であり、そのような必要な仕組みを実現した状態が当然、目指すものとなる。そして、その成果はその仕組みによってもたらされるものである。
 ただし、これは、図書館のイデアのようなものを言っているのではない。現実の社会は変化するものであり、そのときに必要とされる仕組みとしての図書館もまた変化するものだからである。
 だから、図書館学は図書館の中から出発するのではなく、図書館の外から出発しなければならない。社会の中から図書館要求を抽出して構成することが必要なのである。これが本来の図書館学だと思う。

 さて、この社会の中の図書館要求だが、地域・コミュニティによって大幅に違う。21世紀と言っても、裸族だって存在しているわけである。無文字社会の図書館要求は長老とかシャーマンとかの人間情報媒体によって実現されているわけだが、実は、文字社会の中にもたくさんの長老やシャーマンがいる。文字社会においても、すべてが文字で書かれているわけではないのである。
 図書館は文明のひとつの要素だが、その文明は非文明を内包しており、それも含めて、いわば、「図書館化」する営みが必要になってくるのである。だから、記録だとか出版だとかということと図書館は大いに関係があり、また、そもそも情報というものは読まれる(受容され理解される)ことによって初めて意味が成立し、知識も形成されるわけだから、その提供のあり方と下準備は重大な関心事になるのである。
 今まで、ここらへんが貸出しとか、分類・目録とか、情報検索とか、レファレンスとかそういう範囲で語られていたわけだが、図書館というものが文明の制度的一要素である限り、その、政治及び経済的位置づけというものは確立しなければならないわけである。そして、それは、権力的・抑圧的機構ではなく、個人の人権保障機構でなければならないのである。基本的には情報アクセス権の問題だが、それが学習権や知る自由も構成するのである。
 ここが図書館という仕組みの普遍的部分である。だから、その普遍性の基礎は、人間性(ヒューマニティー)の普遍性に依拠していて、その意味で、確かに、非常に近代的である。
 それで重要なのは、この普遍性については、精緻な裏づけが必要であるため、その検証ということが挙げられる。一方で、そのような普遍性を前提にした上で、現代の図書館という仕組みに何が社会から求められているかを分析し、それを綜合して、具体的なサービスを構想し実現することである。
 こういう図書館学自体の整理・再編がないと、なかなか展望もないと思う。
(S.Y.)


posted by 発行人 at 23:07 | Comment(0) | リレーエッセイ | 更新情報をチェックする
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