2009年03月17日

憲法に9条があるように、図書館法にも9条がある ―都道府県立図書館への政府刊行物の無償提供を目指す取り組みについて

 ほとんどの法律には9条があるものですが、9条というとやっぱり憲法のことを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。図書館九条の会が既にありますが、図書館法九条の会も結成したいと考えている今日この頃です。

図書館法
(公の出版物の収集)
第9条 政府は、都道府県の設定する図書館に対し、官報その他一般公衆に対する広報の用に供せられる独立行政法人国立印刷局の刊行物を2部提供するものとする。
2 国及び地方公共団体の機関は、公立図書館の求めに応じ、これに対して、それぞれの発行する刊行物その他の資料を無償で提供することができる。

 「官報その他一般公衆に対する広報の用に供せられる独立行政法人国立印刷局の刊行物」とは、端的に言えば国の行政機関が発行する資料で、官報(国の公報)や国会の会議録、白書や政府統計などがその代表的なものです。
 図書館の重要な機能として、国や地方自治体の政治や行政が何をしているかという情報を、国民や住民に提供するということがあげられます。
 図書館法9条はこれを実質化する条文です。1950年に制定された図書館法にこのような規定が設けられたのは、その後の知る権利の認識の高まりからすれば卓見と言うべきでしょう。
 条文を見ると、都道府県立図書館へ「提供するものとする」、その他の公立図書館へは「提供することができる」となっていて、都道府県立図書館への提供がより強く要求されています。最低でも都道府県立図書館には提供しなさい、という規定なのです。

 政府の発行する資料なんてふだんは読まない、とお考えの方も多いかもしれません。確かに、こうした資料は書店などではあまり多くは見かけません。
 しかし白書はその分野の施策やデータを概観するのに便利ですし、政府統計は何かを調べようとする時の基礎資料となるもので、利用者の相談を受ける図書館員であれば日常的に利用しています。

 たとえば、自分のおこづかいが少ないのではという疑いにかられたサラリーマンが、「日本のサラリーマンの小遣い金額の平均が知りたい」という質問をしたとします。この答えは『家計調査年報』という政府統計で調べることができます。
 この資料は、日本の家庭が何にいくら使っているかを調べる際の基礎的な資料です。また『日本統計年鑑』も基本的な統計がまとめられていて、とりあえず統計に困ったらまずこれを見るというような資料です。

 最近はこういった統計もインターネットから最新の結果が見られるようになってきました。これは国民・住民にとっては(図書館にとっても)大変便利なことなのですが、一般的にインターネットにはここ数年の統計しか掲載されません。
 長期間、安定的に情報を保存し提供するという点では、印刷した刊行物を図書館で所蔵しておくことが依然として重要なのです。

 私は県立図書館に勤務していますが、勤め始めたころ官報を受け入れていてふと気づきました。はて? 県立図書館って官報はもらえるんじゃなかったかしら。それを官報販売所から買ってるのはなぜだろう、と。先輩に聞いても、昔からそうだというだけ。
 その後いろいろ調べているうちに、図書館法ではそう書かれているが「履行されていない」という実態であることがわかりました。「履行されていない」ってそんなのあり? 官報やその他の政府刊行物も決して多くはない資料費から購入しているんだし……。そういえば憲法9条も履行されていませんね。

 国勢調査などは総務省から寄贈されてきますが、省庁によって寄贈には温度差があります。寄贈してくれなくとも図書館に不可欠な資料は毎年購入することになります。全体では購入の方が寄贈よりも多いようです。
 ちなみに経験的に言って、防衛省は大変よく寄贈してくれます。国民の支持を得たいと考えている(かつ広報予算の潤沢な)省庁ほど寄贈には熱心なようです。
 今まで購入していた政府刊行物をもし寄贈してもらえれば、その分の資料費を民間出版社の出版物(普通の本や雑誌)の充実に使うことができるわけです。

 この問題については、日本図書館協会が主体となって取り組みを行なってきました。特に昨年の、図書館法を含む社会教育一括改正法の審議の際、国会議員から図書館法9条について質問をするようお願いした結果、下記のような答弁がなされました。

169回国会 参議院文教科学委員会 第8回 2008年6月3日

○植松恵美子君「そうなんですよね。政府刊行物は無料で二部ずつ提供されることになっているにもかかわらず、実際のところは図書館側が購入しているようなんです。この費用が、一つの大体図書館当たり、年間でも五百万とか六百万あるいは数百万に及ぶと言われております。
 この政府刊行物の納本について遵守すべきであると思いますが、文科省から各省庁への要請を徹底していただけるでしょうか。」

○政府参考人(加茂川幸夫君)「この図書館法九条の趣旨でございますが、公の出版物を優先的に公立図書館に提供することによりまして、一般の国民に対する広報の用に供しようとする趣旨であると理解をいたしております。
 ここでは都道府県立の図書館が対象になってございますが、都道府県立図書館は、都道府県内の図書館サービス、図書館奉仕の中心となることが期待されておりますために、第一項のような規定、委員御指摘のような規定になっておるわけでございます。
 この規定の趣旨からしますと、私どもとしましては、委員御指摘のような実態も今心配されておりますので、まず実態把握に努めたいと思っておるわけでございますが、今の九条の条文の趣旨の普及を関係方面にまず働きかけたいと思っておりますし、刊行物を発行する省庁の理解、協力を求めながら規定の趣旨の実現に努力してまいりたいと思っております。」

○植松恵美子君「大臣、この現状を今お知りになっていただいたと思うんですけれども、今後、積極的にこのことを取り組んでいただけるでしょうか。図書館の現場では、今非常にこの図書購入費という財政が非常に限られてきておりますので、これを無料でいただけるかどうかというのは大きなことなんですね。大臣、もう一度お願いいたします。」

○国務大臣(渡海紀三朗君)「法の趣旨にのっとって、各省庁にもきっちりと徹底するように我が方が努力をさせていただきます。」

 文部科学大臣が「きっちり徹底するよう」努力すると言ったことを足がかりに、それを現実のものとする働きかけが必要です。
 日本図書館協会では今年に入って、都道府県立図書館に政府刊行物の購入・寄贈状況の調査を行ないました。
 今後は調査結果に基づき、図書館現場での必要性を示しながら政府各省庁に寄贈の働きかけを行なう予定でいます。また、必要に応じて市町村立図書館にもこうした寄贈の動きが広がればと考えています。
 都道府県立図書館の図書館員だけでなく、市町村立図書館の図書館員や利用者の方からも、ぜひ公立図書館への政府刊行物の無償提供を求める声をあげていただければと思います。

(静岡支部 新)


posted by 発行人 at 23:27 | Comment(0) | リレーエッセイ | 更新情報をチェックする
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