
◆◆目次◆◆
特集:図書館の力を信じて―震災、その後
図書館の力を信じて―「特集にあたって」にかえて 中沢孝之 01
故郷・女川町に図書館をつくる夢 今野順夫 05
茨城も震災被災地 大畑美智子 09
震災時の図書館状況 木滝正雄 13
震災から9か月・復旧復興過程における岩手県内図書館の新たな取組み 平留美子 22
震災、その後―支援の絆と名取市図書館の取り組み 柴崎悦子 26
震災の日から 菅野佳子 33
3月11日からの私、そして図書館 早川光彦 38
書架の地震対策 織田博之 43
連載:
図書館ノート―13 夜明けの図書館―レファレンスサービスは夜明け前? 山口真也 53
出版産業時評―12 国によるマスコミ監視の実例―原発報道をめぐって 長岡義幸 58
マスメディアの現場から―76 深い反省と悔悟のうえに町づくり担う覚悟―震災で出会った人 佐々木央 66
アメリカの図書館は、いま。―62 ニューヨークの図書館での児童/ヤングアダルト・サービスは、いま。 井上靖代 74
各地のたより:
東京発=有山ッ生誕100周年記念集会「有山ッの視点から、いま図書館を問う」報告 82
図問研のページ:
非正規職員のための交流のページ図書館基礎講座〈福岡〉に参加して 下吹越かおる 85
編集後記 88
column:被災地の図書館から:
しずけさ 加藤孔敬 52
column:図書館九条の会:
フォトジャーナリスト樋口健二さんに注目 赤尾幸子 65
イベントガイド:
図書館九条の会第8回学習会 08
日本図書館協会図書館政策セミナー非正規雇用とは? 50
Crossword Puzzle;333 51
◆◆特集にあたって◆◆
図書館の力を信じて―「特集にあたって」にかえて
◆はじめに
振り返るといつもとまったく違う一年だった。はるか昔の出来事のようにも昨日起こった出来事のようにも思え、いまだに頭の中で整理しても整理しきれていないのが実情である。
多くの方が亡くなり、行方不明の人たちも数多くいる。津波や福島原子力発電所の事故によって遠隔地に避難や疎開をした人たちの帰郷は果されないままでいる。震災直後には首都圏で混乱が起こり、帰宅困難者が多く発生した。さらには計画停電。3月とは言え肌寒い気候の中で、停電になったことは生活や仕事、日本経済に大きく影響した。空気中や海中に放出された放射線物質の問題もあらゆる方面で暗い影を落としている。
そして、今後も各地で大地震の発生が予想され、警鐘が鳴らされ続けている。
震災は終わっていない――。
◆図問研では
東日本大震災の発生直後、とにかく被災地域の図問研会員の安否を確認することを最優先に、ネットの中での情報交換が盛んに行われた。混乱する情報の中、犠牲になったり、ケガをしたりした会員はいないことは幸いだった。しかし、広範囲の地域で多くの図書館が被害を受けたことに強い衝撃を受けた。過去、開館中には大きな地震が起きなかったことに私たちは油断をしていたこともあり、今後の危機管理、地震対策を今一度考えてゆく必要に迫られている。
図問研では被害を受けた各図書館や会員に対して復旧支援活動を行うことはしなかった(被災した会員に対して会費の免除を打ち出したのが唯一の取組みだろう)。被害が広範囲にわたるため、会員それぞれが個別に行動して個人または図書館や自治体の中で、知恵と力を出してもらうよう呼びかけた(『みんな図書館』2011 5月号p76参照)。ある人はボランティアで被災地の図書館で本の整理や装備をし、ある人はドロかきに汗を流した。ある人は役所に置かれた義援金箱に義援金を入れた。
今後は、再度、図問研として何ができるかをみんなで考え、議論し行動できればと考えている。みなさんのお力添えをお願いし、光を見出して、各地に光を届けられたらと思っている。
2012年の図問研の集会も研究集会(2月)は福島県白河市、図問研全国大会(7月)は宮城県でそれぞれ開催を予定しており、地元の各支部が多忙の中、活発に動いてくれているので全国の会員の積極的な参加や発表をお願いしたい。
今回の震災の特徴は、被災地だけでなく全国の図書館にも少なからず影響を及ぼした点だろう。計画停電や節電を理由に閉館をしたり、開館時間を短縮したりする図書館もあった。できるかぎり開館してほしいという呼びかけも図問研でおこなったが、通常に戻るまでにはかなりの時間を有している。
さらには、放射能の問題。正確な資料・情報提供を行うことも呼びかけたが、様々な資料と異なる多くの見解、何が安全で何が危険なのか、分からないままどんどんと時間が経っていった。真実を見極める目を持つことの大変さと重要性が重くのしかかっている。これからも選書や情報提供の重要性が問われる場面に出くわすことだろう、その時に全国の仲間との情報交換や結束が大切になる。メール、ともんけんウイークリー、近々更新される図問研のHPなど、ネットワークを重視してゆくことも必要だろう。
◆女川と草津
5月の連休後、群馬県と町村会の呼びかけで、被災地支援として宮城県女川町の行政支援に参加した(全国の自治体が行政支援で被災県に職員を派遣しており、参加した会員もいるだろう)。派遣は希望制で県職員と市町村の職員の17名の混成チームで9日間、小学校の一角で役場業務を手伝った(役場は津波で流されていた)。図書館とはまったく関係のない窓口業務だったが、住民との対話もあったので図書館のカウンターサービスと変わりはなかった。疲れきった表情の町の人たちから「ありがとう」「遠くから来てくれてありがとう」「草津に行ったことがあるよ、良い所だね」などと笑顔で言われたときには、女川の人たちの強さに心を打たれた。
その中で図書館の役割について考えた。派遣は震災から2カ月たった町。津波でほとんどの家屋が流され、多くの人たちが体育館や学校での避難生活を余儀なくされていた。話を聞けば身内が亡くなった、行方が分からないということばかり。その日、生きていくために精一杯という人たちが本当に多く、対応しているこちらも常に目頭が熱くなっていた。津波で町のほとんどが流され、家が壊れ、ビルが横倒しになり、自動車が高いビルの上に載っている――そんな町の光景と静かに光る海を見ると、一日も早く傷を癒してもらいたいという思いが強くなる。
そういう状況下で図書館は受け入れられるのだろうか。図書館員の立場なら一日でも早く開館して多くの人に本を届けたいと思うだろう。だが、被災した多くの人の生活を軌道に乗せるために自治体職員としての役割を考えた時には図書館の開館は後回しになっても仕方がないかという思いも抱いた。
一方で被災した町のなかで、新聞記事の収集、町やボランティアセンターから発行される印刷物の収集、支援物資や義援金受け取り場所、その内容の情報提供、被災した町の写真を撮り、記録に残すこと、郷土資料の収集や救出、復興に関する資料と街づくりに関する資料の収集など、図書館員としてやらなければならないことがたくさんあると実感したのも、この派遣を通してからだった。人が足りず、行政機能がようやく機能し始めた大変な混乱の中で図書館をと言うのはなかなか難しいが、平時から、図書館の役割やその機能を行政と住民にPRし「非常時こそ図書館を」という種をまくことも大切であることを痛感した。
女川町には震災前から「絵本館」プロジェクトという絵本を中心とした図書館の動きがあった。準備が整い、さあ開館という所で津波に襲われてしまったという。だが、子どもたちに本を活字の力をという教育委員会の熱い思いとユニセフや企業の力で学校内に「女川ちゃっこい絵本館」がオープン、たまたま開館のセレモニーに立ち会う事もできた。子どもたちが楽しそうに絵本を読んでいる姿に胸が熱くなり、活字の力や本の力にこちらも自然に笑みがこぼれ、被災地の中に僅かな光を見いだすことができた。絵本館の活動がひいては、女川の図書館づくりの運動につながって行く事を祈っている。
震災直後に計画停電が始まった時、我が町の教育委員会や総務課に図書館の開館をどうするか聞いた。すると「図書館は情報提供を町民にしなければならないんだから、開けたほうがいい」という答えが返ってきた。南相馬市からの避難者を受け入れた時も「図書館の利用案内を配り、町民と同じように使ってもらおう」と災害対策室から提案してもらった。役場と教育委員会の後押しがとても力強く、救われることも多かった。だから、震災直後から通常開館し、計画停電の薄暗い中でも開館した。そんな悪条件でも利用者が一人ふたりと来館する。「開いてて良かった。」「一人だと心細くて」「テレビは地震のことばかりで怖い」など、カウンターで話をしながら、新聞や雑誌を読んで行く。忘れることのできない光景だった。南相馬の人たちも利用してくれ、津波に遭遇したときのことや、避難した時の様子を詳しく話してくれた。これらの体験は忘れる事はできないし、もう二度と起きて欲しくないと強く思っている。
◆おわりに
大きな揺れや津波、災害が図書館を襲った時、一人の犠牲者も出さないためにはどうしたらいいのか、そして、いち早く開館をするためにはどうしたら良いのか、早急に考え対策を講じる必要があるだろう。そして非常時に図書館がどのような役割を果たせるのか、100%の力を出し切れるのかをすべての関係者が考えて行かなければならない。図書館が早急に答えを出さなくてはならない時がきている。
(図書館問題研究会委員長 中沢孝之(なかざわ・たかゆき))