本文書には、以下の一文が添えられている。文書の署名・期日は書かれていない。
『極秘文書』
本文書は、大会で司会を勤めた某人が、大会後、会場に忘れて帰った資料群の中から発見された。但し、某人は、これが自己の所有物であることを否定している。遺失物として保管されていたが、保管期限をすぎたため廃棄・焼却処分されるべきものではあるが、興味深い文言をいくつか含んでいることから、極秘文書として永久保存されるものとする。
入会式次第
・会員の入場:
会員の服装・所持品は、各員の主張を反映するものとして、一切の制限を許されない。
・司会者の宣言:
「これよりわが会の入会式ならびに司書叙任式を行う」
・入会者の入場:
入会者は、生地のエプロンを身につける。エプロンのポケットには、鋏、ブッカーの端切れ、糊が入れられている。入会者は、3冊の本を持たねばならない。「市民の図書館」「図書館の自由宣言」「図書館員の任務と目標」である。
・入会者への問答:
【司会者】
「集いし者どもよ、何故に来たりしか」
【入会者】
「徳高き諸兄諸姉よ、われらの道に先行く方々よ。我は、図書館の大義を信じ、汝らに続くために来たり」
【司会者】
「されば、そを証すべし」
【入会者】
「われらは、生地のエプロンを身につける。我らが主に扱うは図書なり。されど古人曰く、『書を読みて、書を信ずるは、書をよまざるにしかず。』されば、われらは書と我をへだつため、而してより多くの書にふれんがため、エプロンを身につける」
「わがエプロンは生地なり。我らは、すべての書、すべての書と知識を求める者に対し、平等かつ不偏なることを示すため、生地のエプロンを身につける」
「わがエプロンには、鋏と糊とブッカーを保持したり。そは、すべての本を、全ての人が、利用しやすくかつ守るためなり」
【司会者】
「善哉。善哉。善哉。集いしものどもよ、汝らはその技を、汝らのみにつけしものをもって証したり。我らは、そを嘉す。されば、汝らの想いを証すべし」
【入会者】
「徳高き諸兄諸姉よ、われらは志をたてしとき、かかる三書を得たり」
(「市民の図書館」を掲げて)
「われらは、ここに至高の業を見いださんとす。そは、冒すべからざる業なり」
(「図書館の自由宣言」を掲げて)
「われらは、ここに果てしなき想いをいだく。そは、つきる事なきあこがれなり」
(「図書館員の任務と目標」を掲げて)
「われらは、ここに偉大なる務めを見る。そは、完き標なり」
「われらは、ここに誓う。われらは、至高の業を見いだし、果てしなき想いをいだきつつ、偉大なる務めをなさん。われ誓言し、かく行わん」
【司会者】
「善哉。善哉。善哉。集いし者どもよ、汝らはその想いを証したり」
(参列者を振り返って)
「兄弟姉妹よ。ここに、われらの会に加わり、われらとともに道を究めんとするもの集いたり。彼らは、その身につけしものをもってその技を証し、持ちたる書をもってその想いを証したり。汝らに問う、彼らをわが同胞に迎えるや否や」
【参会者】
(拍手と賛嘆)
「然り。然り。然り」
【司会者】
(入会者たちに)
「只今より、汝らは我らが兄弟姉妹にして、わが同胞なり。よって、道に先立つものとして、汝を司書となさん。汝ら、この称号(な)を受けるか」
【入会者】
「われは望む」
【司会者】
「されば、汝を司書となさん。疾くわが前に来たれ」
(入会者がすみやかに司会者の前に進み出るの見て)
「汝らは、すべての利用者の命に服し、速やかにその意を体さねばならない。すなわち、汝ら勤勉たれ」
「わが前に跪き、頭をたれよ」
(入会者が跪き、頭をたれるのを見て)
「汝らは、すべての利用者を敬わねばならない。すなわち、汝ら恭謙たれ」
(入会者の頭に手をかざし)
「汝らは、すべての知識を得てそれを用いねばならない。すなわち、汝ら賢明たれ」
「汝らは、勤勉にして、恭謙にして、賢明たり。すなわち、汝を司書となす」
【参会者】
(拍手と賛嘆)
「然り。然り。然り。善哉。善哉。善哉。神の名をもってたたえられる至高者に幸あれ」
【入会者】
「いま、われは徳高き諸兄諸姉の同胞となり、司書の名を得たり。これをもってわが想いは成就せり」
【司会者】
「わが同胞にして、新しき司書たちよ。これよりはわが右に座し、我らともにあるべし」
「されど、いまだ汝らは成就せしにあらず。こは、汝らの新生にして始まりなり。また、ラ師の曰く『図書館は成長する有機体なり』されば、汝らは一つの場所にとどまることも、一つの道に拘ることも許されない」
「我らの道は果てしなく、語り継ぎ、受け継ぐ技と想いは多い。飽かざれ、慢らざれ、倦まざれ。こは、我らが先人より受けし深秘なり。改めて汝らに授くものなり」
【参会者】
(司会者・入会者とともに)
「われらは、ここに誓う。かつて勤勉にして、恭謙にして、賢明たりしことを先にもあらんことを。飽かず、侮らず、倦まず、われらが道を極めんことを。然り。然り。然り」
入会式次第とされる文章はここで終わっている。文書群はこのほかに、「神秘なる手話と合図」「志願者への訓戒」「堅信会次第」「上位位階のあらましと就任者リスト」などが付されている。
(T.T.)